坂の上の雲


一気呵成(いっきかせい)

「呵」は、息を吹きかける意。
凍った筆に息を吹きかけて一気に詩や文章をつくり上げることから、ひといきに物事を成し遂げることをいう。

その翌々日、東郷は参内しなければならなかった。凱旋の奏上をするためであった。
凱旋の奏上は日清戦争の例では口頭でありこんどもその先例に準るはずと参謀長の加藤友三郎もおもっていたところ、陸軍がすでに文章を作りあげていると知り、加藤はあわてた。東郷が上陸する前日のことである。
参謀清河大尉の記憶では、加藤があわただしく幕僚室に入ってきた。このとき清河は真之と一緒に長唄の蓄音器を聴いており、真之はソファに寝ころがっていた。
「秋山さんはむくりと起き上がって」
と、清河の話にある。真之はすぐその場で筆をとり、しばらく筆を噛んで考えている様子だったが、あと一気呵成に書き上げた。それが、「客歳二月上旬」とういう文章からはじまる凱旋奏上文である。

『坂の上の雲』(雨の坂)より

投稿者 kaizer : 2007年02月11日 02:58