「おまえ、秋山家の先祖が伊予水軍であることを知っているか」
と、(秋山)好古はいった。(秋山)真之は知らない。
伊予は、水軍の国である。
源平のころにはすでに瀬戸内海の制海権をもち、源氏も平家もそれぞれこの水軍を抱きいれようと腐心し、最初平家に属したために平家は瀬戸内海岸に源氏を一兵もちかづけなかった。のち源氏に属したために制海権は源氏にうつり、平家はついに壇ノ浦でほろんだ。
戦国期も、伊予水軍は生きている。
さらには江戸末期にいたっても、伊予の水夫たちの実力は天下にひびいており、幕末、幕府の遣米使節をのせて「咸臨丸」が太平洋をわたるとき、幕府はその水夫を伊予の塩鮑島から徴募したほどであった。
「とにかく伊予人の遠祖はみな瀬戸内海に船をつらねて漕ぎまわった連中ばかりだ。おまえがその伊予人のなかから出てはじめて日本海軍の士官になる。」
好古は、腕をあげ、横なぐりに鼻をこすって洟をすてた。目がうるんでいる。が、すぐ声をあげて笑い出し、
「海軍のめしはうまいぞ」
といった。
司馬遼太郎著『坂の上の雲』より










